「睡眠」の出典

昨日参加した研究会で興味深い話は聞いたのでメモ。

「睡眠」は、元来、仏教語であり、今日広く使われる意味とは異なる。
例えば、『文選』巻十一の孫綽「遊天台山賦」の「発五蓋之遊蒙」という句の李善註に「大智度論曰、五蓋貪欲・瞋恚・睡眠・調戯・疑悔」と見える。「五蓋」は仏道修行の妨げとなる5つの障碍。ここでの「睡眠」は仏教辞典などに拠ると、「心が不活発で体の動かないこと」を言うらしい。

ちなみに「睡」は、「坐して寝る。居眠り」が本来の字義、「眠」は所謂「ねむる」。

仏教語ゆえ、例えば詩には「睡眠」の語はなかなか現れない。唐詩には2例のみ。時代が下がって宋に至り、ようやく頻出するようになる。
唐詩の例として、最も古いのは杜甫の「茅屋為秋風所破歌(茅屋秋風の破る所と為る歌)」。七言24句の長詩だが、その第17・18句に云う。

自経喪乱少睡眠   喪乱を経し自り睡眠少なし
長夜霑湿何由徹   長夜 霑湿 何に由りてか徹せん

この例では確かに現在の「睡眠」に近いように見える。また、詩に限らずとも、仏教語から脱した「睡眠」の例としては、最も早い可能性が高いとの由。

ちなみに唐詩のもう一例は、晩唐の李咸用「謝僧寄茶」の冒頭二句。

空門少年初志堅   空門 少年 初志 堅く
摘芳為薬除睡眠   芳を摘みて薬と為し睡眠を除く

こちらは詩題からも推察される通り、仏教語の匂いが濃い。